私たちはMacを愛している。カスタマー満足度1位だ。ティム・クックはそう語ってきた。それはわかったから、Macの未来を語ってほしい。
もうすぐアップルがイベントを開催する。告知ページに「One more thing.」と書かれたイベントだ。日本語では「もう一つあります。」と間抜けだ。
メディアを見るとどこもこぞってApple Silicon搭載のMacを発表するイベントだと書いている。しかし、それははじめてのことではない。Apple製のSiliconを搭載したMacという意味なら2年前から存在している。
大方が、13インチのMacBook ProないしMacBook Air、もしくはその両方にApple Siliconを搭載したものが発表されるとみている。それも外観デザインは現行モデルと変わらないという。
前CEOのスティーブ・ジョブズの常套句であり、アップルにとって意味ある言葉である「One more thing.」を飾っておいて、それだけで終わるだろうか。マスコミが見たことがない見た目のものを新しい商品だと取り上げる世界で、外観デザインの変わらないMacBookを発表するだけでイベントを開催するだけの意味があるだろうか。
イベントの告知ページに示された、カラフルなグラフィックは何を指しているだろうか。紫、ピンク、赤、オレンジ、黄色、白、水色の光が意図的に描かれているように見える。これらのボディカラーを提供していないMacBookだけの発表だろうか。
「One more thing.」だ。期待はずれはやめてほしい。
言葉が出るままに書いている。
Macだ。Macについて語ってほしい。冒頭に書いたとおり、ティム・クックはここ数年、新しいMacを発表する際には必ず、Macはカスタマー満足度1位だと語る。そして2018年10月のニューヨーク、MacBook AirとMac miniの新型が発表されたイベントではMacを愛していると語った。うる覚えだが。
iPhoneの盛り上がり以降、Macは不遇の時代を迎えていた。Macユーザーの怒りが爆発する寸前にならないとMacをアップグレードしない。そんなギリギリの状態だったように思う。
それが2017年のWWDCで発表されたiMac Pro、そして先に書いた2018年10月のニューヨークのイベント以降は、Macにも少しは気を配っているように思える。
長らく文字通りゴミ箱状態だったMac Proを刷新し、ハイエンドのMacBook Proも16インチ化した。2020年のiMac 27インチは最後のインテルモデルと言われているが、それ故に完成度が高く、久しぶりに堂々と見えるiMacだった。
しかし、決定打がない。Macを愛していると語るCEOもイベントでせいぜい一回それを言うに止まっている。
そこに今回のApple Siliconである。2020年のWWDC、MacのSoCをIntelからApple Siliconに移行すると発表したティム・クックはこう語った。
Apple CEO Tim Cook, WWDC 2020 Keynote
私たちが大きな変化を決めるときのたった1つの強力な理由は、より良いプロダクトを作るため。将来を見据えて新しいプロダクトをイメージするとき、Appleのカスタムシリコンが必要になってきます
「将来を見据えて新しいプロダクトをイメージするとき」。それはどんなプロダクトだろうか。
さらなるパフォーマンスだとか省電力化、Neural Engineの導入やApple製品全体が共通したアーキテクチャになるだとかは、この際どうでもいい。乱暴に言えばそんなのはフォースパワーが上がっていきますというコンピューティングの応用くらいのものだ。
私が求めているのは、VPのエヴァンズ・ハンキーをはじめとするインダストリアルデザインチームが、Macの未来をどのように考えているかを、ティム・クックがしっかり語ることだ。エヴァンズ・ハンキーは外に出ることを避けているようでもある。
処理スピードが何倍ですとか、バッテリーライフがどのくらいですという話じゃない。Apple Siliconがもたらす省電力な設計でMacの限界が押し上げられた結果、Appleの想像力がMacで見せてくれるライフスタイルやクリエイティブのある世界がどんなものになるのか。そしてそのMacはどんな姿をしているか、どんな体験を私たちに与えてくれるのか。
そして、そのMacを牽引する存在が、新型のiMacであってほしいと私は願っている。
これまでのMacに自虐的な後ろめたさがあるかはわからないが、WWDC 2020でティム・クックはこうとも語っている。
これほどMacの将来に自信を持てたことはありません
Apple CEO Tim Cook, WWDC 2020 Keynote